アトピー性皮膚炎
まず検査で原因の絞り込みをしております
皮膚の炎症や湿疹を伴う症状
アトピー性皮膚炎は、皮膚の炎症や湿疹を伴うアレルギー疾患です。症状としては顔がはれ上がったり頭に湿疹ができたり、身体がかゆくてお困りの患者さまが来院されます。
アレルギー症状の悪化原因を探ります
現在の医学でも原因がよくわかっていない病気ですので、対処療法を行うことになります。当院ではアトピー治療についてある程度コースを決めています。まず最初に血液検査を行い、食べ物や花粉・ダニ・ハウスダストなどのアレルゲンに反応するかどうかを判断します。例えば花粉でも、スギ花粉だけが原因のこともあれば秋の花粉であるブタクサも合わせて原因となっていることもあります。患者さまの体質が何に弱いのかを知ることで、季節によって治療に強弱をつけることができます。そのためにも血液検査はとても重要です。
また肌が荒れる原因として、日常使っている石鹸やシャンプー・化粧品が原因になっている可能性があります。その場合はそれらの製品を48時間皮膚に密閉して貼り、かぶれないかどうかをチェックするパッチテストを行います。
快適な状態を保つために
治療のプランやお薬の判断をしていきます
血液検査とパッチテスト。この2つの検査の結果を参考にして、どのようにすれば良好で快適な状態を維持できるのかを判断していきます。
花粉アレルギーの方であればその季節に特に治療を強めればよいですし、かぶれるものが見つかった方は、パッチテスト判定で安全が確認できたもので生活をしていただきます。乾燥に弱い方であれば冬場に保湿を徹底して行う必要があります。そのようにして生活のプランを立てます。ステロイドについては患者さまご自身のお考えを尊重します。
ステロイドの使用について患者様の意思を尊重
そしてその中で、どのような薬剤を使用するかを決めていきます。当院で最も大量に処方しているのは良質な保湿剤です。しかし、たいへん重症の場合、保湿剤だけでは症状が改善できないことが多くあります。薬剤の発展の歴史を顧みると、激しいかゆみを伴う浸出液の滲んだ重症の炎症部分を確実に治すために発明されたのがステロイド外用剤です。多くの患者さんを診察してきて、やはり最も効果が高い治療薬だと感じます。また私も虫刺されやかゆみには、すぐステロイドを自分の肌に塗っています。
しかし、当院ではステロイドを使用するかどうか、患者さまご自身の意思を尊重して考えています。「ステロイドを使っても良い」という方もいれば、「絶対使いたくない」という方もいらっしゃいます。「使うのであれば最低限にしたい」という方もいます。
重症にも関わらず、どうしてもステロイドを使いたくない場合には、抗アレルギー剤の内服や非ステロイドの外用剤で治療するようにしています。しかし、上に述べたように、効き目は弱いので、繰り返し丁寧に塗ってお手入れをする必要があります。
ステロイドを使用せず炎症を抑える方法も
外用薬以外の補助治療として、当院がよく用いているのが保険診療で受けられる「セラビーム」です。有益な紫外線(UV308)だけを照射する治療でアトピー性皮膚炎の炎症を抑えることができます。血行が悪くなっているところや乾燥しているところには、これも保険治療で近赤外線レーザーを照射したりステロイドを使わずにアトピー性皮膚炎をコントロールする補助治療も大切です。
かゆみのコントロールに注射を
紫外線などの光線療法と並んで保険診療でできるかゆみコントロールの方法の一つに
注射薬による治療も行います。グリチルリチン酸やビオチン、ノイロトロピンなどの治療薬を静脈内に注射することでアトピー性皮膚炎や慢性湿疹のコントロールを行います。湿疹の跡の色素沈着にも対応できる薬剤です。
肌への保湿
保湿が大切なアトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎の患者さまは、皮膚の表面の水分量を測ってみると正常の10分の1以下に減ってしまっています。そのため、ご自宅での保湿は最も大切な基礎のお手入れです。まず保湿剤を使って皮膚をしっとり湿らせます。次にその与えた水分の蒸発を防ぐために上から油性の軟膏を塗ります。
まずこのお手入れをご家庭で毎日1日3回以上しっかりしていただきます。1回外用しても5時間くらいしか持たないからです。赤ちゃんの場合では、お母さまが熱心に外用を徹底されるので、ステロイドなしでも軽快する例も多いようですが、成人の方が自分の体全体にこれを徹底するのは大変かもしれません。「効くのはわかっているけどできない」よくそんなお声をうかがいます。
夏場になって皮膚が汗ばむようになってくると、一生懸命されている保湿外用も少し休んでいただいて大丈夫な季節に入ります。秋になると、また再び保湿剤と軟膏を塗り始めていただきます。気候の移り変わりでメリハリをつけます。赤ちゃんのカサカサ肌の場合、成長して皮脂の分泌が激しくなってくるとそこでお肌がしっとりしてくることも多く、成長を待つことも大切です。首が短く埋もれている乳児の、顎下や首周りの湿疹も、多くの場合2歳を過ぎて首が伸びると治ります。お母様には長い目で成長を待つことをお勧めし、その間は適切な外用の指導をしています。
ステロイド使用の場合は強さや量を適量に
通院の手間を考えると、「ステロイドを使ったほうがよい」と判断される患者さまもいらっしゃいます。
ステロイド剤については、「脱ステロイド」を目指さない患者さまも実際にはおられます。そんな方は長年ステロイドの使用に慣れておられ、ご自身の皮膚の状態が悪くなって「これはもう限界だ」と感じたらステロイド剤を塗る、というふうにご自分でコントロールしておられます。お仕事がご多忙の方の多くが、そういう形での治療を選択しているようです。
ステロイド外用剤には強さのランクが5段階ありますので、皮膚の厚さに合わせて使い分けることが大切です。例えば、皮膚の厚い背中用の強いステロイドを皮膚の薄い顔面に塗るのは危険です。アトピーは、快適な状態を1年間維持することが大切です。
ステロイドは副作用に気をつけながら
アトピー性皮膚炎の治療については、定期的にお肌の調子を教えていただければ、その時に入浴の仕方やお洋服の選び方など、日常生活の注意ポイントについてもタイミングよくご指導いたします。
季節ごとにお越しいただければ、花粉の季節になるとお肌の調子が悪くなるという方についてもチェックできます。時には汗をかく部位に、ステロイドの副作用によってカビ(水虫やたむし)が発生することがあります。それを「アトピーが悪化した」と勘違いしてさらに多くのステロイドを塗ってしまい、余計にカビを繁殖させていまっている場合が年間何例もあります。ステロイドで治りが悪いとお感じになった時は、カビの感染が疑われますので、顕微鏡による真菌検査にお越しください。
快適な生活を過ごすために
生活上のご注意
乾燥肌や皮膚の薄い方がナイロン製のあかすりタオルを使用すると、大切な皮膚をさらにすり落としてしまうことになるので使用は避けたほうがよいでしょう。同様に化学繊維の肌着やストッキングも避ける必要があります。
一番お肌によいのは毛羽立ちのない綿の肌着です。機能防寒下着は特殊な化学繊維の網目構造で、皮膚に密着し摩擦を強めるので、綿素材の上から着ていただければと思います。最近はトレーナー姿で寝ている方も多いのですが、ゴワゴワと刺激が強いので痒みの原因になりかねません。例えばポプリンのような目の細かい綿100パーセント素材のパジャマが良いと思います。枕や布団にフリース素材を用いるのも、肌への摩擦を強めます。
患者様の判断とともに進める治療
アトピー性皮膚炎は、現代の医学では完全に治すのは難しい疾患です。そのため快適な状態を1年間維持することが大切です。またステロイドを使用するかしないかは、患者さまの選択にお任せしています。お話を伺うと、「即効性がなくても、治療の手間がかかっても良いからステロイドを使わない治療をして欲しい」という患者さまも少なくありません。そういう患者さまの納得感を大切にする治療を行っていきたいと思っています。
追記 デュピクセントの治療について(2021年4月23日)
上記の記事を書いてから後に、デュピクセントという注射薬が発売になりました。2週間に一度の注射で、かつてないほどのアトピー性皮膚炎への効果が次々と発表されています。私共は、デュピクセントの注射を行っておりませんが、施術をされている先生へのご紹介を数多くさせていただいております。どんな薬なのかの説明や、どの病院や医院に行くのが都合がいいかなどのご相談窓口として、当院をご利用ください。